西アフリカの主食作物ギニアヤムの起源を解明

ギニアヤムはサバンナと熱帯雨林に生育する野生種の雑種起源

1.背景

ヤマノイモ属の根菜作物を総称してヤム(Yam)と呼びます。ナガイモもヤムの一種です。世界のヤムの90%以上が生産される西アフリカ地域で最も重要なヤムは、ギニアヤムという種です。

ナイジェリア、ガーナなど西アフリカの人々は、ギニアヤムを主食としています。ギニアヤムは、茹でた後、杵でついてモチのようにして食べます。現地の人々にとって、ギニアヤムは食料としてのみならず、社会や文化面でも主要な地位を占める最重要作物ですが、ウイルス病、線虫などに弱く、耐乾燥性などのストレス耐性向上や収量増加などが求められていました。しかし、分布がアフリカに限られていることから、その起源に関する研究や品種改良が遅れていました。

そこで、生工研では、国際貢献の一環として、ナイジェリアのイバダンにある国際熱帯農業研究所(IITA)の研究者などと共同し、ギニアヤムの改良を目指した研究を続けてきており、2017年に、ギニアヤムの全ゲノム配列を世界で初めて解読・公表(Tamiru et al., 2017 BMC Biology)し、これに続き、これまで、ギニアヤムの起源解明や品種改良を目指した研究を進めてきました。

2.研究手法・成果

国際熱帯農業研究所(IITA)の研究者が、西アフリカから広く採集・保存しているギニアヤム約300系統の葉からDNAを抽出し、次世代DNAシーケンサーにより全ゲノム配列を解読しました。

この配列を、近縁野生種2種(サバンナ地帯に生育する野生種アビシニカヤマノイモと熱帯雨林地帯に生育する野生種プラエヘンシリスヤマノイモ)のゲノム配列と比較したところ、ギニアヤムが、これら2種の雑種起源であることが明らかになりました。

一方、昨年(2019年)、フランスの研究グループは、ギニアヤムが、野生種プラエヘンシリスヤマノイモから起源したとする仮説を発表(Scarcelli et al., 2019 Science Advances)していますが、より多くの系統を用いた私たちの詳細な研究結果は、その仮説を否定するものです。

今回の研究結果は、アビシニカヤマノイモが母親、プラエヘンシリスヤマノイモが父親となって雑種ができ、この雑種が、人類によって選抜・栽培化されてギニアヤムができたことを示唆しています。また、栽培種として成立したギニアヤムに対して、野生種から何度か自然交雑で遺伝子が導入され、それを品種として利用していたというゲノム配列上の痕跡も見つかりました。

3.波及効果、今後の予定

ギニアヤムの新たな品種改良の取組は始まったばかりです。今回の成果によって、野生種が持っている耐病性やストレス耐性などの多様性を積極的に利用する品種改良の重要性が示されました。今後、野生種の特性とゲノム情報を解析することで、DNAマーカーなどを利用した効率的な品種開発に発展することが期待されます。なお、野生種の分布する熱帯雨林が伐採により減少してきていることから、これらの環境保全も重要な課題となります。

4.研究プロジェクトについて

本成果は、生工研、京都大学農学研究科、国際熱帯農業研究所(IITA)、国際農林水産業研究センター(JIRCAS)、東京農業大学、総合研究大学院大学、英国Earlham研究所の共同研究によるものです。なお、本研究は生工研、国際熱帯農業研究所(IITA)が、ビルメリンダゲーツ財団から支援を受けて実施している「AfricaYamプロジェクト」、並びに、生工研、国際熱帯農業研究所(IITA)が、国際農林水産業研究センター(JIRCAS)から支援を受けて実施している「EDITS-YAMプロジェクト」の一環として実施しました。

<論文タイトルと著者>

タイトル:Genome Analyses Reveal the Hybrid Origin of the Staple Crop White Guinea Yam (Dioscorea rotundata) (ゲノム解析が明らかにした主食作物ギニアヤムの雑種起源)

著者:Yu Sugihara, Kwabena Darkwa, Hiroki Yaegashi, Satoshi Natsume, Motoki Shimizu, Akira Abe, Akiko Hirabuchi, Kazue Ito, Kaori Oikawa, Muluneh Tamiru-Oli, Atsushi Ohta, Ryo Matsumoto, Paterne Agre, David De Koeyer, Babil Pachakkil, Shinsuke Yamanaka, Satoru Muranaka, Hiroko Takagi, Ben White, Robert Asiedu, Hideki Innan, Asrat Asfaw, Patrick Adebola, Ryohei Terauchi

掲載誌:Proceedings of the National Academy of Sciences, U.S.A.

DOI:https://www.doi.org/10.1073/pnas.2015830117

<ギニアヤム育種の将来展望イメージ図>