イネ-いもち病菌相互作用の解明


イネいもち病はイネの最重要病害の一つです。 一般に、植物は微生物の攻撃から身を守る抵抗性機構を持っているため、様々な菌の多くはイネに感染できません。イネいもち病菌がイネに病気を引き起こすことができる理由は、いもち病菌がイネの防御機構を抑える能力を持っているからであると考えられています。

私たちは、イネといもち病菌の攻防における分子機構を解明することにより、病気に負けない農作物の開発や新しい防除方法の開発に寄与することを目的として、研究を進めています。


病気に負けない作物を目指した最先端の基礎研究

植物病原菌は宿主植物への感染時にエフェクターと呼ばれる様々な分泌タンパク質を宿主植物に注入し、宿主の機能を攪乱することでその病原性を発揮することが知られています。そのためエフェクターの機能は病原菌感染の成否を決定する非常に重要な要素とみなされ、世界的に注目されています。

エフェクターを認識する抵抗性タンパク質遺伝子(R)を宿主植物が保有している場合、そのエフェクターは非病原力因子(AVR)と呼ばれ、強い抵抗性反応を引き起こすことが知られています。

私たちはこれまでに、イネいもち病菌の3つの非病原力遺伝子AVR-Pia、AVR-Pii、AVR- Pikを同定し、AVR-Pia、AVR-Piiについてはそれを認識するイネのR遺伝子Pia遺伝子、Pii遺伝子の単離にも成功しました。これらAVR遺伝子はそれぞれのR遺伝子がない時はいもち病菌の感染を助長させるためのエフェクターとして働いていると考えられます。

研究チームでは、同定されたエフェクター候補や病原性タンパク質の機能解析を試み、それらと植物との相互作用の解明を目指して研究に取り組んでいます。

AVR がイネのRに認識されて強い抵抗性反応が誘導され、いもち病菌は感染に失敗する

AVRとRの複合体結晶構造解析によりタンパク質間結合部位を特定

いもち病菌由来AVR-PikDと、AVR-PikDを特異的に認識するイネのRタンパク質Pikp-1との相互作用を、タンパク質結晶構造解析によって世界で初めて解明しました。AVR-PikDは、Pikp-1のHeavy Metal Associated 領域様配列(Pikp-HMA)と結合していました。AVR-PikD/Pikp-HMA複合体の結晶構造を解明し、タンパク質間結合部位を特定しました。

AVR-PikD/Pikp-HMAタンパク質間結合部位