ゲノム解析による有用遺伝子の同定・機能解析

ゲノムとは、ある生物の細胞の中にある遺伝情報の全体のことで、生物の体を作り、生きていくために必要なものです。生物の設計図であるゲノムを調べることで、性質の違いを決めている遺伝子を見つけて、品種改良に利用することができます。

農作物のゲノム解析で有用な遺伝子をみつける

世界の多様なイネや雑穀から品種改良に役立つ遺伝子を見つけ、その遺伝子の機能を解明するとともに、ゲノム情報を活用した品種改良を支援します。

例えば、イネには進化や栽培化の過程で生み出された多様な遺伝資源が存在します。これら遺伝資源は、見た目の姿が違うだけでなく、病気への抵抗性、寒さ暑さなどストレスへの耐性、1つの穂に着く籾の数、コメ1粒の大きさなど、多様な特徴(形質)をもっています。このような形質の違いは、長い年月をかけてDNAに刻まれた遺伝子の有無や働き方の違いによって現れます。農業に役立つ形質に関する遺伝子をみつけて機能を解明することで、品種開発に応用することが可能になります。

私たちは、水稲、雑穀など農作物の品種開発に役立つ情報を得るために、多くの遺伝資源と最先端の解析技術を用いたゲノム研究を進めています。

イネ大規模遺伝子資源を用いた有用遺伝子の同定

突然変異体や大規模交配集団等の様々なイネ実験系統群を育成し、多収性、良食味性、高度耐病性、高度耐冷性、耐倒伏性等に関する遺伝子の同定および機能解析を行います。同定した遺伝子のゲノム情報を活用し、岩手県の水稲・雑穀などの新品種開発を支援します。

これまでに、品種「ひとめぼれ」の突然変異系統 12,000系統、「ひとめぼれ」と多様な外国稲の組換え近交系(Recombinant inbred lines, RILs)3,000系統を作出しています。次世代シーケンサーを用いてゲノム情報を整備し、MutMap、QTL-seq、GWASなどの手法により有用遺伝子の同定を進めています。

例えば、突然変異系統からは耐塩性の変異体を見出し、原因遺伝子を同定するとともに実用的品種「Kaijin」を品種登録(登録番号: 26505、登録年月日: 2018.1.30)しています。

雑穀のゲノム育種に向けて

岩手県は日本一の雑穀産地です。近年、雑穀の機能性成分などが注目され、需要は伸びていますが、生産者の減少などにより生産量は伸びていません。岩手県では、雑穀生産振興の一環として、生産性向上に向けた品種開発に取り組んでいます。

私たちは、雑穀(アワ、キビ、ヒエ)のゲノム情報を整備するとともに、有用遺伝子同定など育種に寄与する基礎研究に取り組んでいます。